橈骨遠位端骨折患者の歩容特徴を解明

論文

~インソール内蔵センサによる歩行解析~

ポイント

  • 初発の脆弱性骨折として最多を占める橈骨遠位端骨折患者を対象に、靴内の慣性センサを用いて、速度負荷を加えた歩行から歩行特徴を抽出しました。
  • 橈骨遠位端骨折患者は、健常者と比較し、握力が低値であり、速度負荷を加えた際の歩行の変化量が小さく、この特徴を用いて歩行から機械学習を行い骨折患者の判別を試みました。
  • 今後、本センサが日常生活空間での歩行を用いた骨折や転倒リスクの予測、予防に貢献することが期待されます。

研究の背景

 橈骨遠位端骨折は閉経後の初発の脆弱性骨折として最多を占め、その後、二次骨折リスクが高まります。脆弱性骨折は骨粗鬆症と関連しているため適切な介入が必要ですが、実際には橈骨遠位端骨折患者は半数近くが骨粗鬆症基準を満たしておらず、特に今後の予防介入はなされていないケースが多いのが現状です。橈骨遠位端骨折及び二次骨折のリスクとして、骨の脆弱性のみならず、身体能力や機能的能力の低下との関連が近年着目されております。適切な介入をして今後の二次骨折を予防するために、さらには骨折の一次予防をするために、骨折リスクの評価方法の確立が望まれます。

研究の概要

 本研究では、骨折の原因として約半数を占める転倒、さらに、転倒を起こす主動作である、歩行、に着目しました。定量的な歩行パラメータやそれらのばらつきが転倒と関連することは過去に報告がありますが、骨折患者の歩行特徴に関してはほとんど知られておりません。今回は、最小限の違和感で歩行を正確にモニタリングできる、NEC社の開発した靴内慣性センサ(A-RROWG)を使用して、骨折患者の歩行特徴の抽出を試みました。

慣性センサ(A-RROWG)を用いた測定方法
被験者は、両足に慣性センサの入ったインソールを挿入し、16mの直線路を計8回歩行して計測を行ないました。

 施設内16mにおける通常直線歩行に加え、速度負荷を加えた最速歩行、ゆっくり歩行を行い、3種類の歩行速度における足部の軌跡を解析し、これらの結果から11の歩行パラメータとそれらの変動係数(ばらつき度合い)を算出、機械学習の1種であるXGBoost※1を用いて骨折の有無を判別しさらに重要な特徴量の算出を行いました。

 上記のセンサを橈骨遠位端骨折女性患者28名、脆弱性骨折の既往のない32名の健常者を対象に歩行検査及び身体機能調査を行ったところ、骨折群では握力が有意に低値であり、速度負荷による歩行パラメータの変動が小さく、速度負荷の環境下の方が歩行特徴の差が顕著に現れました。さらに、握力値と歩行パラメータを用いて骨折の有無を推測した結果、感度61.5%、特異度71.9%、AUC ※2 0.740の精度であり、最速歩行の立脚時間、ストライド長などが判別の上で有用であることが判明しました。

研究の意義

 本研究では、靴内に慣性センサを使用し、最小限の負担で、骨折患者の歩行特徴を抽出することができました。本センサを応用することで、日常生活内の歩行を無意識下に解析し、骨折や転倒リスクの予測、アラートするシステムの構築を目指します。転倒や骨折を機に日常生活のQOL(Quality of Life) が低下することが知られており、二次骨折のみならず、初発の骨折が予防できるよう今後さらに手法の確立が期待されます。

※1 XGBoost:Extreme Gradient Boostingの略。機械学習の1つで、精度が比較的高く、それぞれの特徴量の重要度の算出をすることも可能である。

※2 AUC:Area Under the Curveの略。検査方法の評価項目の1つで、0から1の値を取り、1に近いほど精度が良いことを意味します。

掲載誌:Gait & Posture

論文タイトル:Gait characteristics in patients with distal radius fracture using an in-shoe inertial measurement system at various gait speeds

論文DOI:10.1016/j.gaitpost.2023.10.023

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